もう一度行きたい場所
前を見ると、山からの水が少しづつ湧き出したような、綺麗な小川が底まで透き通り、赤や緑、黄色など様々な色小石が見えました。小魚の泳ぐすがたも心地よいです。
小さな橋があるので渡ってみると、道の両脇は色とりどりの花が咲き乱れ、初めて見るような花もたくさんありました。
はて、道に迷ったかと思い後ろを見ると、そこはもうせり出すような森に隠れ今渡ったばかりの橋も消えていました。
青空に雲が程よく浮かんでいましたが、浮かんでいると言えば、綺麗な羽衣を着た天女が中空を高く低く舞うように浮かんでいました。
とにかく目の前にある道を進もうと、向こうから歩いていると歩いてくる人々に出会いました。決して華美ではないのですが、きちんとした着物を着ています。その人たちにかるく会釈をされたので、会釈を返す自分の服をみると、私もいつのまにか和装になっていました。
さらに歩くと道の両端に畑が広がり、菫が一面に咲いている畑もありました。
また、別の畑では耕している人もおり、その人々は牛を使って耕しているようでした。
ゆっくりと心地よく働く人々の心に触れたような気がしました。
どこからともなく聞こえてくる笙の笛の音の方を見ると横笛、篳篥の管楽器や打楽器などで厳かな音を奏でていました。
雅楽を先頭にした一行の中ほどには象の背に台座を付けたところに座った一見して高貴な方と思しき人が柔和な顔で座っていました。その後ろには吹き流しのような色とりどりの長い布を竿のような棒に着けた青年たちが、正装をして連なって歩いていました。
道行く人々は、やはり軽く会釈をしていました。
少し腹が減ってきた頃、路の両側に店を構える、所謂商店街のようなところにさしかかりました。
藁ぶき屋根の昼食件居酒屋のような店に入ると、店主が出迎えてくれました。
初めてですかと聞かれ、はいと答えると、お代は要りませんので何でもゆっくり食べていってください。と言われました。私が腹を空かせているのが分かっているようでした。
店の中は結構広く、カウンターのような所には海の幸山の幸が、新鮮さそのままに置かれていました。
綺麗な盛り付け用の皿が置かれていたので、ビュッヘスタイルで好きなものを自分で選ぶ形式なのが一目でわかりました。
私は、好物の刺身や栗ご飯などをゆっくりと堪能し、主人にお礼をいって店を出ました。
店を出て、腹ごなしに、さらに歩こうとしたところ、ストンと何かを踏み外した感覚におそわれました。
最初は意識が朦朧としていましたが、どうも病院のベットに横になっているようでした。
見ると家内が心配そうに覗いています。
後から聞いたのですが、私は持病が悪化して道の端に倒れているところを救急車で運ばれたとのことでした。
私が見た世界、あれは何だったのでしょうか?
今思えば、この世の事とは思えませんが、あの時は自然と別世界に馴染んでいました。
できることなら、もう一度あの地へ行きたいものです。